他所の土地の事は知らないが、姫路の山健組系列の村正会や疋田組は 渡辺芳則二代目山健組々長が五代目山口組の当代に就いてからは「山健組にあらずんば 山口組にあらず」と云った風潮の中で 極道渡世を張って来た。

　その付けが今頃ジワっと廻って来たのだ。

　六代目山口組になった時、名古屋関係の人間が「山健組も、これで今まで儲けて来た金は 全部吐き出しや」と云っていたのが俺の耳から今だに離れない。

　この言葉は山健組以外の組員全てが、思っていた言葉だったろう。

　極端な話しだが、四代目山口組若頭から五代目山口組々長になった渡辺芳則は、自分の出身母体である山健組と中野会しか信用せず 厚遇して来た。

　それ以外の組も 渡辺五代目の舎弟や若中であった筈なのに、身贔屓が過ぎ 冷たくあしらった。

　それが原因で 五代目山口組でも 外様と呼ばれる組織の末端へ行くほど尚 血の滲むような心労を重ねた。

　三代目山健組若頭補佐・小山顕治は、ヤクザをする前は散髪屋の小僧として「ヘイ、おおきに」等と云って 客に媚を売っていた男だ。

　そんな男が山健組の看板を持って、渡辺芳則五代目組長の出世街道と並行して この小山のような錬金術の上手い男でも出世して来た。

　そして村正会初代・村田正一会長が死んでからは 中野太郎の肝入りで、二代目村正会の会長になった。

　この小山顕治ほど 堅気の人間は云うに及ばず、自分の若い者からも顰蹙(ひんしゅく)を買っている人間は少ないだろう・・・

　何せ、考え方その物が ソロバンで動いて来たので、それも仕方ないと思うが・・・

　極道の実績というのは、三代目村正会々長になった水田忠好が 山竹戦争で牛尾組関係の人間を弾き、勲章を射止めた事ぐらいだろう。

　しかし こんなヤクザのイロハを知らない小山のような人間が 名門二代目村正会の跡目を取っても、邦楽会の福原辰広や 四代目西川会を継承した松岡武のように、人の心を動かせる程の器量のある極道にはなれなかった。

　山健組の威光を笠に着て、極道として何の将来的なビジョンも描かず、金儲けに奔走して来たからだ。

　・・・小山の極道としての晩年は、肝心な自分の若い者にまで金を借り 払わなかったりして、乞食同然の男となった。

　その点 初代の村田正一会長は、山健組の若頭をしていた程の人物で 立派な男だった。

　若し、と云う言葉が許されるなら、初代・村田正一会長が死んだ時 村正会一門の者は、出来たら中野太郎の若い者になりたかっただろう・・・

　それだけ中野太郎と初代・村田正一 それに渡辺芳則は仲が良く、すごく近い関係にあったのだ。

　小山に関して云えば 自分の若い者を平気で踏み台にして、自分の地位に汲々として座り続けた。

　ヤクザが 持った親方に冷や飯を喰わされるほど、悔しい思いはない。

　これは親方と呼ばれる人間が してはならない事で、現役の親方衆にとっては心に留めておかなければならない格言であろう。

　これは中野太郎自身が云っていた。

　幸い 今、村正会も代目継承がスムーズに行き、上手い具合に行っていると思うが・・・

　俺個人としては、若頭をしていた松岡武、現在は山健組内四代目西川会々長として活躍している男に 村正会の跡目を取らせたかった。

　この男は 元は右翼団体をしていた男で、人間的に一本筋が通っているから俺は好きな極道のひとりなのだ。

　もうひとり、二代目村正会若頭から直参に上がって 現在は舎弟に直っている邦楽会の福原辰広も 金もあり、極道としての所作が完璧で 何よりも極道としての姿勢が抜群だ。

　俺は この内どちらかひとりに村正会の跡目を継いで貰いたかった。

　現在の村正会三代目は 刑務所生活が長い分、まだ人の意見を聞けるだけの器量が無い様に思うからだ。

　どちらになっても もう姫路に器量の無い親方の率いるヤクザは要らないと思う。

　だから頃合いの良い所で 姫路のヤクザは全員暴力団更生活動を目指し、世の為・人の為に頑張ってもらいたいと切に願う次第である。