武骨の名残り雪

私が小さな額に入れて、本棚の隅に置いて居る竹中武のテレフォンカード。
私が小さな額に入れて、本棚の隅に置いて居る竹中武のテレフォンカード。

 今日、久し振りに竹中武の夢を見た・・・

 

 夢の中で竹中武は、私に「サトルよ、俺が死んだ時、お前には通夜に来てもらい、葬式にも出席してもらった。その上、49日の法要と納骨にまで参列してもらい感謝して居る。俺はつくづく良い若い衆を、兄貴(竹中正久)から受け継いだと思ったよ」と夢の中で私に語りかけるのである。

 

 そして「俺の納骨の時、ふたつあった骨つぼを、ひとつにしたが、その時俺の骨の一片は、ヒラヒラと風に舞って下へ落ちて行った・・・」

 

 「その骨がお前の目の前を落ちて行くとは思わんかった」

 「お前が、その骨を口に入れて、ガリガリと噛み砕いて食べたのには正直俺も驚いた」

 「俺が驚いたぐらいやから、まわしの兄貴(竹中正)や他の参列者は、皆一様に驚いたはずや!」

 「俺の骨が、お前の目の前を落ちて行くのも奇怪やが、それ以上に俺が思うのは、お前との縁の深さや」

 

 お前が神戸刑務所を昭和61年6月19日の早朝に出所したあと、その足で兄貴(竹中正久)の墓参りに行ってくれて、そのまま俺が収監されて居た岡山(弁佐)拘置所に面会に来てくれた。

 

 それが、その日の夕方に俺の保釈が効いて、お前とは同じ日に娑婆の空気を吸った訳や。

 

 俺も兄貴の仇討(かたきう)ちばかり考えて、お前の放免祝いの事はすっかり忘れとった。

 

 それだけあの時の俺は、真っ直ぐ先しか見えんかった。

 兄貴を殺(や)った一和会の連中が許せんかったんや。

 

 そやから俺は一和会の者は誰も拾わんかった。

 

 サトルよ、俺も若かった。

 

 若い分だけ器量が無かったと云えば、その通りかも知れん。

 お前の(性格やして来た)事は、兄貴(四代目)から聞いて良く知って居ると、保釈で出て家に着いたあと直ぐ話したのに、皆と酒を飲んだらその言葉を忘れてしもとった・・・

 それが今となっては、俺の名残り雪になってしもた。

 

 兄貴の子飼いのお前を俺もなぜ、もっと大事にせんかったんかと、今あの世で悔んで居るよ。

 

 考えたら俺も、兄貴の若い衆だった者には一線を引き過ぎたかも知れん。

 そこが苦労しらずのまま跡を継いだ、俺の二代目としての欠点やったと思う・・・

 

 でも俺が山口組を出たんは俺ひとりの意地だけで出たんやない・・・

 兄貴の仇である「山本広」がどうしても許せんかったんや。

 

 俺も播州人やから大石内蔵助を誇りに思って生きて来た。

 

 それだけ尊敬して来たのに、いざ俺がその立場に立ったら、それが出来んかった云うたら、播州人の恥(はじ)やないか・・・

 

 そやろサトル!

 

 俺は、姫路と岡山の中間に在る赤穂の人間が立派な仇討(あだう)ちをして、なんで俺達姫路生まれの岡山育ちが出来ないんかと拘置所の中で、ずっとそれを想って来たよ。

 俺には「播州人としての赤穂浪士を抜きに、何も考えられんかった」と云うのが正直な話しや。

 

 これだけは、お前に分かってもらいたいと思い、お前の夢まくらに立ったんや。

 

 サトルよ、高山一夫の事は悪い事をした。

 お前と高山一夫の仲を、もっと理解しとったら俺も、違った意味で器量のある対応が出来たかもしれん。

 

 今更、何を云ってもあとの祭りやけど、俺は兄貴(四代目)が生前云って居たように、男で生きたい・・・とそれだけを心の中で念じながら極道をして来た。

 

 俺は、自分の信念を曲げてまで山口組に残る気はなかった・・・

 残って、自分の信念を曲げたら、それこそ死んだ兄貴(四代目)に、あの世で顔向けできんやろ。

 

 俺はつくづく猪(いのしし)武者やと思う・・・

 それでも、こんな男が昭和の極道の中に居たと云う事を、サトルにも改めて知ってもらいたいんや。

 

 そりゃ兄貴(四代目)は立派な男や。

 俺なんか足もとにも及ばん大きな男やった。

 兄貴(四代目)が大き過ぎた分、お前から見て俺が小さく見えるのは、しょうがないと俺も思っとる。

 

 兄貴が作った竹中組を、俺は兄貴の時代より大きくしたと過信しておったのも事実や。

 

 その竹中組の「のれん」を、俺たち竹中兄弟をコケにした山口組にだけは渡したくないと云うのが俺の極道としての意地やった。

 その意地を、まわしの兄貴も受け継いでるはずや!

 

 サトル、お前には俺のこんな竹中魂が理解出来んやろなぁ。

 

 俺の事は、まだ誰も本に書いて無いが、その内、お前を通じて誰かが俺の胸の内を含めて書いてくれると思って居る。

 

 最後にサトルに云っておく。

 お前は俺の骨をガリガリ噛んで食べて、俺の体の一部はお前の骨の一部になって居ると云う事や。

 それと、兄貴(四代目)の分骨を、お前はよっちん(坂本義一)から預かったようやが、その骨もガリガリ食べたそうやな。

 

 お前の体の一部は、俺と兄貴の骨で出来て居ると云う事を忘れたらアカンで。

 

 兄貴(四代目)の分骨を、竹中組々員だった者が入って居る五輪塔に入れてくれたそうやが、兄貴もよっちん(坂本義一)やマナブ(西村学)と一緒に、あの世で賑やかに侠客にでもなる算段をして居ることやろ・・・

 

 もっとサトルとは話したいが、今日はこれぐらいでおく・・・

 

 ・・・「山平重樹にでも、俺の事を話して本にでも書いてもらってくれ・・・」とは云わなかったが、なんか考えさせられた夢だった・・・      合掌